広島地方裁判所 昭和39年(わ)740号
被告人 岩本勝
昭一一・一・九生 販売員
主文
被告人を懲役一年六月に処する。
本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一、別表記載のとおり昭和三八年五月末日頃から昭和三九年七月二八日までの間に前後一二回にわたり、広島県呉市三坂通り附近に停車していた自動車内外三か所において、山本文昭外七名所有の現金合計八、六〇〇円、運転免許証一通及びポツト三本(時価五、五〇〇円相当)をそれぞれ窃取し、
第二、三度も運転免許の試験に失敗したが、その資格をとりさえすれば、勤先で体のきつい荷造り等の仕事をしなくてもすむものと考え、前記第一の別表番号5記載の窃取した広島県公安委員会の発行にかかる同委員会の押印のある細川忠信に対する軽自動車運転免許証(昭和三六年一二月二五日交付、第二一〇〇七二号)を利用して、これを自己に対する運転免許証のように偽造しようと企て、右免許証の氏名、生年月日、本籍、住所、写真撮影の年月日及び免許年月日の各記載を消しゴムでこすつたりインク消しを使つたりして抹消し、ペンとインクを使つて、氏名欄に「岩本勝」生年月日欄に「昭和一一・一・九」、本籍欄に「河原・三五番地」、住所欄に「段原大畑・一〇〇の八番地」、写真撮影の年月日欄に「三九・四・二〇」、免許年月日欄に「三六・一二・一八」(以上の数字はいずれもアラビヤ数字)と各記載し、更に右免許証の写真欄に貼付されていた細川忠信の写真を擅に引き剥がし、これにかえ同欄に自己の写真を貼付し、もつて広島県公安委員会の記名押印のある同委員会作成名義の軽自動車運転免許証一通(昭和四〇年押第一三号の一)を偽造し、
たものである。
(証拠の標目)(略)
(確定裁判)
被告人は、昭和三九年一〇月二〇日広島簡易裁判所で道路交通法違反罪により罰金一、五〇〇円に処せられ、右裁判は同年一一月五日確定したものであつて、右事実は被告人に対する前科調書によつて認める。
(法令の適用)
被告人の判示第一の別表番号1から12までの各所為はいずれも刑法第二三五条に、判示第二の所為は同法第一五五条第一項に各該当するところ、同法第四五条前段及び後段によれば、以上の各罪と前記確定裁判のあつた道路交通法違反罪とは併合罪の関係にあるので、同法第五〇条によりまだ裁判を経ない判示の各罪につきさらに処断することとし、同法第四七条本文第一〇条により最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法第二五条第一項第一号を適用して、この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して被告人に負担させることとする。
(一部無罪の判断)
被告人に対する偽造公文書行使の公訴事実の要旨は、「被告人は昭和三九年五月二〇日頃から同年七月二八日までの間、偽造の運転免許証(判示第二に掲記するもの)を携帯して、広島市内において軽自動車を運転して行使した。」というのであり、前掲各証拠によれば、被告人は公訴事実記載の期間中、偽造の運転免許証を携帯して、広島市内において当時の勤務先であつた奥山商会所有の自動三輪車を運転していたことは明らかである。
しかし、本件において被告人が偽造した基本の運転免許証は軽自動車に関するものであるけれども、右免許証の自動車等の限定欄には「軽自動車は四輪及び三輪車以外の車に限る」旨の記載があつて、もともと右免許証の資格では明らかに自動車三輪車を運転することができず、これを携帯していたとしても、被告人のように自動三輪車を運転していた場合には、右偽造にかかる運転免許証はそれ自体、その行使としての効用を充たしえないばかりではなく、偽造公文書行使罪の保護法益が公共の信用であることに鑑み、刑法第一五八条第一項にいう「行使」とは、偽造公文書をその情を知らない第三者に対し、外部的な行為によつて恰も真正に成立した公文書のように装つて使用し、その結果第三者において閲覧しうべき状態におくことを要するものと解すべきであるから、前認定のように被告人が偽造の前記自動車運転免許証を携帯して公訴事実のように自動三輪車を運転していたことだけでは、まだ被告人の外部的行為によつて偽造の運転免許証を第三者に真正な文書として閲覧しうべき状態(すなわち、文書の公共の信用を害するに至る状態)においたということはできないと解するのを相当とする。
以上の理由により、公訴事実のうち右の部分は偽造公文書行使罪に該当せず、結局罪とならないものである。しかし右は判示第二の公文書偽造罪と牽連犯の関係にあるとして起訴されたものと認められるから、主文において特に無罪の言渡をしない。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺雄 池田久次 野口頼夫)